名曲をアナリーゼ!〜坂本真綾「gravity」でのハーモニーを切る!

こんにちは。ギターのteshimaです。今回は菅野さんの楽曲を理論的な視点から切り込んでみようと言う記事です。ただ理論的な視点といっても、むやみやたらと難解な内容にして読んでる人を置いてけぼりにしていってもよくないので、なるべくマニアックになりすぎずに分かりやすく書いていってみようと思います。
前回は創聖のアクエリオンを取り上げましたが、今回は「gravity」です。 

thanks-k-orch.hatenablog.com

 

1.基本情報をおさらい

まずは「gravity」についての基本的な情報から。 

gravity

gravity

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「gravity」は2003年に出た坂本真綾さんのシングル曲で、アニメ「Wolf’s rain」のEDテーマです。
この「Wolf’s rain」はスタジオBONESの制作で、スタッフリストを見ると監督の岡本天斎氏、原作の信本敬子氏、キャラデザインの川元利浩氏など、COWBOY BEBOPに参加していたスタッフが多数参加しています。人間に化けることができる狼たちが「楽園」を目指して旅をしていく、、、というストーリーになっています。
なお、今回の記事とは直接は関係ないですが、OP曲の「stray」もめちゃめちゃ名曲で、自分は放送当時あまりのかっこ良さにテレビの前で震えたのをよく覚えてます。こちらも是非チェックしてみてください。

stray

stray

  • Steve Conte
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

楽曲としては、後から見ると真綾さんが菅野さんとタッグを組んでた時代の後期にあたり、今にして思えば二人のコンビによる円熟の完成度を誇っているように思えます。
基本的にはピアノとボーカルと弦だけという繊細な編成でありながら、アニメ本編が持つ切なさと激しさという二面性を見事に描き出しているように思います。

2.Bメロのハーモニー〜分数コード連発のコード〜

さて、理論的な視点で注目したいのはBメロの部分です。Bメロってどこだと言う話ですが、曲でいうと1:21あたりからの部分です。ここのところのコード進行ですが、以下のようになっています。

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ここでは分数コードが連発しています。分数コードってなにかというと、あるコードをその土台となる音(ルート/根音)を変えたもので、普通のコードでは出せない独特の響きを出すことができます。とはいえ分数コード自体はそこまで特殊というものでもないのですが、菅野さんは本当に息を吸うようにさらりと分数コードを使ってくるお方で、特にここの部分は連発しているだけでなく、割と不安定な響きのコードを多様しています。
不安定な響きってどういうことかというと、次にどこかに行きそうな響きをしているということです。

具体的には以下のようになっています。

A/E → Aそのものは本来は不安定な響きではないが、分数コードとなり本来一番下に来ない音が一番下に来てしまっていているため、まるで逆立ちしているかのようなコード。不安定。
F#/E → 不安定な響きの代表格のドミナント7thコードといわれるコードなので、不安定。
B/D# → この一連の流れの中で言えば比較的安定している響きだが、分数コードで本来下に来ない音が下に来ているので、比較的不安定。
G#/F# → F#/E同様、不安定な響きのドミナント7thコードなので、不安定。
C#/E# → この一連の流れの中で言えば比較的安定している響きだが、分数コードで本来下に来ない音が下に来ているので、比較的不安定。
Bb/D → この曲のキーは本来F#mなのですが、この流れでは一時的にEbmに転調したようになっています。Bb/DはEbmにおけるドミナントコードなので、不安定。

と、どれもこれも安定しないコードばかりです。そしてその直後に来るEbmでハーモニーは一瞬の安寧を得ます。

こんな風にとらえながらこの曲を聞いていた人は少ないと思いますが、実はこんなことをしていたんですね。

3.Bメロのハーモニー〜メロディーとハーモニーに隠された線〜

さて、ここまで「ここではむちゃくちゃやっている」という話をしてきましたが、実際問題この曲を聞く時にむちゃくちゃやっているように聞こえていたでしょうか。。。?

何かをむちゃくちゃにやることはそんなに難しくありませんが、むちゃくちゃやっているのにそれを気づかせないことは、それこそむちゃくちゃ難しいことです。

なんでこの部分はむちゃくちゃに聞こえないのか?
それは実は二つの「線」がこの部分をほどけないように結びつけているからです。
一つ目は「メロディー」、そしてもう一つはハーモニーに隠された「ヴォイスリーディング」です。

メロディー

この部分のメロディーを見てみましょう。譜面が読めない方はここのメロディーを口ずさむのでも構いません。
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ここで、メロディーをこんな形にフレーズごとにグループ分けしてみます。
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フレーズが似ているのがわかるかと思います。ここで、次の譜面に注目してみましょう。

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赤丸した音は、フレーズの中で強調されている音です。するとどうでしょう。この音が綺麗に2拍ごとに1音ずつ上に上がっていっていることが分かるかと思います。カラオケなどで歌っていてもここの部分のメロが上がっていくところが好きと言う方、実は結構いるんじゃないでしょうか。自分は好きです。
このメロディーの動き方が、このBメロ全体をつなぎとめる一つ目の「線」です。

ボイスリーディング

もう一つの「線」がボイスリーディングです。ボイスリーディングとは、ハーモニーが動いていく中で、なるべくスムーズに移行していくように、ある音が同じ音・近い音へと動いていくテクニックのことです。

今度はコード名ではなく、五線譜に音を書き出してコードを見て行ってみましょう。

こんな感じになります。

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どの音もスムーズに近くの音に移動していることがわかりますが、ここで特に注目したいのは、この赤線の動きです。

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これは譜面よりピアノロールで見た方がわかりやすいかもしれません。こんな感じになります。色が変わっている音符が上の譜面の赤線の動きです。

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ピアノロールでは白鍵黒鍵関係なく全て半音ずつ音が並べられていますが、これだと完全に綺麗に半音ずつ上がっていってるのが見て分かります。見事です。この綺麗なハーモニーの動きが、このセクションをまとめ上げている二つ目の「線」です。

このおかげで、ハーモニーとしてはめちゃくちゃをやっているのですが、それでいて統一感のある感じに聞こえるのです。

菅野さんはこういう繊細なボイスリーディングをやっている曲が実は結構あるのですが(マクロスFの「妖精」とか)、聞いた感じそんなに難しいように聞こえさせないのに、ひもとくとこんな緻密な構造になっていることに気が付いたときには、菅野さんの深淵な引き出しの深さを感じずにはいられません。

妖精

妖精

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4.去り際に気づかれないように刺していくBmMaj7というナイフ

さて、もう一つだけ書いておきたいのが、この直後のコード進行のところです。先ほど「Ebmでハーモニーは一瞬の安寧を得ます」と書きましたが、一瞬の、と書いたのはその後にこんなことになっているからです。

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ここで注目したいのはBmMaj7というコードです。コードを勉強し始めた人から「お前はマイナーなのかメジャーなのかどっちなんじゃ!」と怒られる率ダントツでナンバーワンのコード、「マイナーメジャーセブンス」コードです(ちなみに名前の中にメジャーとありますが分類としては悲しい響きのマイナーコードです)(なお2位はだいぶ差が開きますがジミヘンコードといわれる○7(#9)コードです)。

響きとしてはこんな感じの響きです。


BmMaj7

。。。どうでしょうか。
おそらくですが、いきなりこれを聞いて「綺麗」とか「美しい」と思うのはなかなか難しいかもしれません。「暗い」とか「悲しげ」と思う方が多いんじゃないでしょうか。どこか悲劇的て棘のある感じでもありますよね。

さて、ではその響きを踏まえた上で、曲中でBmMaj7が出てくるところをもう一度聞いてみましょう。曲でいうと01:31〜01:38のあたりで、件のコードが出てくるのは01:37ぐらいです。

。。。どうでしょうか。
今度は聞こえ方がだいぶ違うかと思います。曲全体の雰囲気によるところもありますが、暗いのはあるかもしれませんが悲劇的という感じはあまりしないと思います。コードが鳴っている時間が短い(テンポは遅いが2拍だけ)のもあって、さらっと流れてしまいます。
また、A/Eから始まる一連のハーモニーがこのBmMaj7までで一つの流れになっているのですが、この流れの最後の最後にスッと差し込まれていることが、暗いのをあまり感じさせない要因になっています。

個人的にはまるでこのコードが、去り際に気づかれないように刺されたナイフのような感じがして、こんなコードが鳴ってたんだ!と気が付いてからはこのナイフに刺されるためにこの曲を聞くようになってしまいました。中毒性高いです。

 5.まとめ

さてさて、今回はちょっとマニアックに「gravity」を分析してみましたが、いかがでしたでしょうか。どんな感じだったでしょうか。

結論です。ちょっと格式張った書き方をしますね。

菅野よう子坂本真綾とgravityは尊い。。。。

おっと、、、。ちょっと心の本音が漏れてしまいました。ちゃんとした文章で書き直しますね。

菅野よう子坂本真綾とgravityは尊い。。。。

おやおや。。。どうあってもこういう結論でしか書けないようです。確かに尊いですものね。。。
以上、gravityについての考察でした。

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なお、「gravity」は、2019年7月7日のThanks!Kオーケストラ第6回定期演奏会でも演奏予定です!
入場無料・全席自由ですので、カレンダーに印をつけておいてくださいね。
弾きたくなった&歌いたくなったあなた、一緒に演奏しませんか?

 

菅野よう子楽曲演奏団体Thanks!Kオーケストラは、第6回演奏会に向けて団員募集中です!

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Thanks!K オーケストラ 第6回定期演奏会

日時:2019年7月7日(日曜日) 開場13:00/開演13:30(予定)
場所:なかのZERO 大ホール(東京都中野区中野二丁目9番7号/JR中野駅南口から徒歩8分)
入場無料

www.thanks-k.com


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Vn / Va / Vc / Cb / 合唱 (ソプラノ, アルト, テノール, ベース)
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